2021/06/10

『孤島の鬼』/江戸川乱歩《感想》たくさんの仕打ちをした島の鬼たちよりも、主人公が鬼に見えてしまった……(個人の感想)

作品紹介
  • 著者:江戸川乱歩
  • 発行:1987年06月27日
  • 出版:東京創元社(創元推理文庫)


「僕を軽蔑しないで呉(く)れ給(たま)え。君は浅間(あさま)しいと思うだろうね。僕は人種が違っているのだ。凡(すべて)の意味で異人種なのだ。だが、その意味を説明することが出来ない。僕は時々一人で怖(こわ)くなって慄(ふる)え上るのだ」 『孤島の鬼』

あらすじ&おすすめポイント
    恋人が殺された。犯人は一体誰なのか。主人公に懸想する男が、嫉妬に駆られて罪を犯したのか? その奇怪な殺人事件が、恐怖入り乱れる孤島に主人公を誘うのだった……。

  • 探偵小説。本題では、かなりグロテスクな描写があり閲覧注意。
  • キメラ/

感想とネタバレ

昔から界隈でささやかれていたので、
乱歩先生が書いたBL風小説はどんなものかな?という、安易な腐ったこころ(下心丸出し)で手を出してみたら……BLではなく、完全なるJUNEものでした。

個人的に、この作品はあまり好きではない方に重く、本当に安易な気持ちで読んではいけない作品でした。

読後において、どうしてもこの作品の主人公が鬼としか思えませんでした。……。
もちろん、終わり方として、当時の同性愛に対する題材ともなれば、めでたしめでたしといったものではなく、まったく「悲恋もの」の傾向が強くなるだろうこともわかります。

しかし、しかしです。
江戸川乱歩のこの容赦のない作風にもう、驚きました。 この作品『孤島の鬼』の、本題であろう「鬼」なんてそっちのけで衝撃すぎて……この二人の関係性が衝撃すぎて……。

あの暗闇のあの死と隣り合わせで、あの告白を聴いても全く諸戸氏を少しも受け入れない、同情の一つもない(一つはあったかも……?)、あの主人公の頑なさに鬼を感じてしまい……。彼の今まで受けていたどんな仕打ちよりも酷く、絶望を感じました……。

片想いというのは、そういうことなのかもしれませんし、読み手自身が上手く行くという王道パターンを望んでいるからこういう感想になるのかもしれません……。

絶望の世界を生きていた諸戸にとって、主人公が唯一の希望だった。どんなことも望みはしない。闇に閉じ込められなければ、あんなことさえなければ、秘めた思いのまま過ごせたのに、正に絶望。

彼の場合、エロスというよりアガペーのような、まさに地獄からの救済を祈りのような想いで主人公を見ているのがわかるだけに、あの洞窟のシーンは強烈な『蜘蛛の糸』です。

また読んでいると怖いなあと思うのは、この主人公はストーカー製造機なところですね……。くっつかなくてもいいのですが、さんざん誘惑しておいて、僕にはソンな気ないのよ。なんて、せめて、抱き締め返してあげるくらいはしてほしいぜ……。

先生が、主人公のそういう誘惑描写をちらほらと入れていたのも答えなのだろうと思います。
……現実を見なさい。ただの生身の人間に、そんな神か女神かのような包容力(救い)を求めてはいけないのだよ、という教訓でもあるのかもしれません。

ただ、個人的なことを言いますと、この世(現実)では救われないのなら、せめて物語では救済をと願っているので、この手の、救いを求めているのに、絶対に救わない・救われない。という話は、大分苦手なのでしょんぼりしましたw

本題の数々の恐ろしい話など吹き飛ぶくらいに、読後、あの最後の文章が心に沈んでいき、それがもう、つらくてつらくて涙が出るくらいの悲しみが容赦なく襲ってきました……。
これをBLだとかは言えないのでJUNE認定しておきます。。。

いうなれば、芥川龍之介先生の偸盗の方がBL(兄弟もの)してますので、おすすめしておきます。



凡て凡て好都合に運んだ中で、ただ一事、これ丈けが残念である。 『孤島の鬼』


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自分は紙媒体で読みましたが、青空文庫にあったのでリンクしておきます。 ▲ 詳しく見る

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