著者:田村芳朗
発行:2002年11月25日
出版:中公文庫
結論的にいえば、現実は雑多・有限・相対の世界である。これが現実の事実相である。その事実相をあくまで事実として認識しつつ、そこに統一的真理を見、絶対的境地を感得するのである。(略)真の仏(本仏)はこのようにして見いだされる。
(143~144頁)
あらすじとおすすめポイント
成立・思想・日蓮主義の三本立て。法華経入門にぴったりのやさしく丁寧な解説で読みやすい一冊。
感想とネタバレ
某掲示板の(何故か)アニメスレで、「100分で名著」の法華経回がいいぞという話をみて、その本を読みました(宣伝?)。法華経の教えがわかりやすく掻い摘まんであって、その本も入門にぴったりでした。で、もっと知りたいなと次にその方の一回目の翻訳本を借りて読みましたが、自分の脳みそで理解できるはずもなく……(汗)。他の解説本も読んでみましたが、どこか物足りない。で、出会ったのが本書です。法華経に対する批判・批評家も交えて法華経とは何か?に迫る内容がよかったです。しかも、批判しているのが、江戸時代では有名な本居宣長などですからまた驚きました。
たしかに、法華経の成立(と翻訳原典)を見ていくと、一般民衆(在家)ではなく、仏教を伝えていくお坊さんたちにあてた戒めみたいな要素が強いなという印象がありました。なので、原典(上巻)を読んでいてもちんぷんかんぷんな部分が多かったです……(言い訳)??
つまり、永遠なる存在についての表象のうち、世界創造とか世界統治のごときは仏教の根本思想に抵触するものとしてはずし、もっぱら苦悩の救い主の面を強調したものであるという。
(131頁)
目から鱗だったのが、仏教の根本的なものというのが苦しみから抜け出すことということは知っていましたが、西洋宗教の「創造」という概念に触れていないことにこの本で知りました。これは大きな違いですね……。これぞ仏教が哲学と言われるゆえんでしょうか……。
しかし、そうはいっても、神(仏)などいない。という台詞を思っている人は多いですが、本当にいないのか?ということを本書では何人かの人を通して問いかけます。
どこに書いてあったか聞いたのか定かではないのですが、お腹が痛いときわけもなく「ごめんなさい、ゆるしてください」とすがったと言う話……。それを聞いたとき、自分も経験があるなあと思い出しました。人が本当の苦しみを感じ、自分の力では解決しようのない苦しみが身に降りかかったとき、人知(知覚)を超えたものへの救済を願うのはまさしく、宗教のあり方の一つなのかもしれません……。(たとえが腹痛なので、すっごく微妙なのですが……)
個人的にポイントだったのは、宮沢賢治について。
国柱会に入っていたのは知っていたのですが、法華経の集まりだったことがわかってすっきりしました。……『春と修羅』の終わりの方にその真言が入ります。『ひかりの素足』には法華経が色濃く反映されていることはわかりました。
(反転・注意)エンタメの内輪話。
大好きなとある小説で、空海が取り上げられていて、その影響で空海が好き?だったのですが、ミーハーな自分はその後、艦隊これくしょん(ゲーム)で「比叡」ちゃんが好きになり、(比叡山の最澄って空海に比べて影が薄いのでは?)と常々思っていました。今回この本で、天台宗は法華経・華厳経の教えを大事にしていたと知っていろいろ驚きが多かったです。今後も比叡好きとしては最澄関連に注目しようと思います。